ブロックチェーンの拡張性や手数料、ユーザー体験を理解するうえで、「レイヤー1(L1)」と「レイヤー2(L2)」の違いは不可欠です。L1は基盤となるメインのブロックチェーンで、L2はその上に構築される拡張手段です。L2の主流はロールアップで、さらにOptimistic RollupとZK Rollupに大別されます。
この記事では、L1/L2の役割、ロールアップの仕組み、OptimisticとZKの違い、利点・課題、設計・運用の実務ポイントをわかりやすく解説します。
レイヤー1(L1)とは
レイヤー1は、ネットワークのコンセンサス、データ可用性、セキュリティの根幹を担うチェーンです。代表例はEthereum、Bitcoin、Solana、BNB Chain、Avalancheなどです。
- 役割:トランザクションの確定、スマートコントラクト実行(対応チェーン)、資産の最終保全。
- 特徴:分散度とセキュリティが重視される一方、ブロック容量やガス価格の制約でスループットが限られます。
- トレードオフ:分散・セキュリティ・スケーラビリティの「三角形」で、L1単体での拡張には限界があります。
レイヤー2(L2)とは
レイヤー2は、L1の安全性を継承しつつ、処理の多くをオフチェーン(または別レイヤ)で行い、結果だけをL1に書き戻す拡張手段です。主流はロールアップで、以下の特性があります。
- 基本原理:多数の取引をまとめて検証可能な形式(バッチ)にし、L1には圧縮された“証拠+データ”のみを投稿します。
- 安全性:資産の最終保全はL1に依存し、L2の不正はL1上のチャレンジや証明で是正可能です。
- 代表例:Optimistic系(Optimism、Arbitrum、Base)、ZK系(zkSync、StarkNet、Polygon zkEVM、Scroll)。
ロールアップの共通構造
- データ可用性(DA):ユーザーが取引内容を再現できるよう、必要なデータをL1へ公開します(Calldataや専用DAレイヤの利用)。
- 状態遷移:L2でトランザクションを実行し、状態を更新。更新の正当性を「チャレンジ(Optimistic)」または「証明(ZK)」で保証します。
- ブリッジ:L1とL2間の資産移動を管理。入金は比較的即時、出金は安全設計により待機が発生する場合があります。
Optimistic Rollupの仕組み
- 前提:すべてのバッチは「正しい」と楽観的に仮定します。
- チャレンジ期間:一定期間(例:7日など)に異議申し立てが可能で、不正が指摘されると「フラウドプルーフ(不正証明)」で該当バッチを巻き戻します。
- 長所:検証が軽く、EVM互換が高いため開発者体験が良好。計算をL2で実行し、L1ではチャレンジ時のみ詳細検証するため、コスト効率が高いです。
- 短所:出金に待機が必要(チャレンジ期間)。MEVや混雑時の手数料はL1の影響を受けます。
ZK Rollupの仕組み
- 前提:各バッチの正当性をゼロ知識証明(ZKP)で示し、L1は小さな“証明”だけを検証します。
- 証明生成:専用プロバーが計算の正しさを回路化して証明します(SNARK/STARK等)。
- 長所:チャレンジ期間が不要なため、原理的に出金が速く、検証が高速・確定性が高いです。大量処理の圧縮効率が良く、長期的なスケーリングに優れます。
- 短所:証明生成が重い、インフラ複雑性が高い、EVM完全互換の実装難度が高い場合があります。
Optimistic vs ZK:主な違い
- セキュリティモデル:Optimisticは「不正があれば誰でも指摘可能」という監視モデル、ZKは「不正が起きえないよう数学的に保証」するモデルです。
- ファイナリティと出金:Optimisticはチャレンジ期間後に確定、ZKは証明検証で即時に近い確定。
- 開発互換性:OptimisticはEVM互換が成熟、ZKはzkEVMの進展で互換性向上中だが複雑。
- 成本構造:Optimisticは証明生成が不要で運用が軽い、ZKは検証は軽いが証明生成が重い。
手数料とパフォーマンス
- L2ガス:L2上の計算+L1投稿のデータコストで構成されます。ロールアップはL1データコストが支配的になりやすく、EIP-4844(Blob)の導入で大幅なコスト低減が期待されます。
- スループット:L2側で高頻度ブロック&並列処理が可能。ZKは検証の効率性により、長期的なスループット拡張が見込まれます。
データ可用性(DA)の拡張
- L1 DA:最も安全ですがコストが高いです。
- 代替DA:Celestia、EigenDAなどの専用レイヤを活用し、コストと安全性のバランスを取ります。ロールアップの選択肢として増加中です。
ブリッジ運用のポイント
- セキュリティ:公式ブリッジの利用、少額テスト、マルチシグ・監査状況の確認が基本です。
- 出金待機:Optimisticはチャレンジ期間に留意、代替ブリッジ(流動性ブリッジ)を使うと即時引き出しが可能ですが、手数料・カウンターパーティリスクを伴います。
- ガス通貨:入出金先のネイティブガス通貨(ETH等)を事前確保し、詰まり時の優先手数料調整を理解しておきます。
開発者視点の実務
- 互換性:EVM互換のL2(Optimism、Arbitrum、Base、Polygon zkEVM、Scrollなど)では、既存ツール(Hardhat、Foundry)が使いやすいです。
- デプロイ戦略:テストネット→監査→段階的メインネット展開。権限は最小化し、タイムロック・緊急停止を用意します。
- ログと監視:L2特有のシーケンサー、プロバー、ブリッジコンポーネントの監視を追加します。メトリクス可視化とアラート設計が重要です。
- コスト最適化:Calldata圧縮、イベント設計、ストレージ節約、バッチ処理でL1投稿コストを抑えます。
ユーザー視点の使い分け
- 低手数料・高速決済:日常的なスワップ、NFTミント、ゲーム用途はL2が有利です。
- 即時性の引き出し:ZKは原理的に有利、Optimisticは流動性ブリッジで代替可能。
- 互換性・エコシステム:dAppの対応状況、ウォレット・インフラの成熟度で選びます。取引所の入出金対応も確認します。
リスクと課題
- 中央化要素:シーケンサーの単一点集中、プロバーの依存、運用権限の残存など。分散化ロードマップを確認します。
- ブリッジ脆弱性:クロスチェーン攻撃の代表的標的。監査・設計・オペレーションに厳格な基準が必要です。
- DA選択の影響:代替DA採用時の安全性・検証可能性を理解し、重大イベント時のフォールバック戦略を用意します。
- 規制・コンプライアンス:KYCや制裁対応、検閲耐性と法令遵守のバランスが運用に影響します。
よくある誤解
- 「L2はL1と同じ安全性」:原理的にはL1の安全性に依存しますが、運用要素(シーケンサー、ブリッジ、証明者)のリスクが追加されます。
- 「ZKは常に最適」:ユースケースと証明生成のコスト次第です。短期はOptimisticの開発容易性が優位な場面もあります。
- 「L2ならガスはゼロ」:大幅に安いものの、L1のデータ投稿コストと混雑の影響は残ります。
まとめ
レイヤー1はセキュリティと最終性の基盤、レイヤー2はその上でスループットとユーザー体験を拡張する層です。
ロールアップは、Optimisticが監視・チャレンジによる保証、ZKが数学的証明による保証で正当性を担保します。用途や優先事項(即時性、互換性、コスト、分散化ロードマップ)に応じて選び分けることが重要です。
開発者は、データ可用性、ブリッジ、監視、権限設計を丁寧に整え、ユーザーは公式ブリッジと少額テスト、ガス確保、対応dAppの状況を確認することで、安全かつ効率的なL2活用が可能になります。技術は急速に進化しています。最新ドキュメントと一次情報に基づいて判断し、段階的に導入・運用することをおすすめします。


コメント